コーヒー豆はなぜ「爆ぜる」のか

COFFEE HAZEL開発の背景

KURIYA COFFEE ROASTERS・株式会社 宙豆ラボ 栗谷将晴


この記事でわかること

  • コーヒー豆だけが「2度爆ぜる」こと
  • 1ハゼの正体は、音ではなく「水蒸気の放出」であること
  • 2ハゼは1ハゼとはまったく別の現象であること
  • 1ハゼ検知の難しさと、COFFEE HAZELのアプローチ

コーヒー豆は2度爆ぜる

コーヒー豆は、加熱していくと爆ぜ(ハゼ)ます。

銀杏(ぎんなん)や大豆、トウモロコシ(ポップコーン)と同じように、パチパチという破裂音を伴って爆ぜるのです。ただし、コーヒー豆にはそれらと違う特徴があります。コーヒー豆だけが、2度爆ぜるのです。

そのためコーヒー焙煎では、1回目のハゼを「1ハゼ(First Crack)」、2回目のハゼを「2ハゼ(Second Crack)」と呼びます。1ハゼと2ハゼでは、発生する仕組みがまったく異なります。


1ハゼの正体は「水蒸気の放出」

コーヒー豆を加熱したとき、豆の内部では次のようなことが起こっています。

  1. 豆はまずゴム状に柔らかくなる。同時に、細胞内部の水分が熱で膨張しようとするため、豆全体がふくらんでいく
  2. その後、ゴム状だった細胞は一転してガラス状に硬化する
  3. さらに加熱を続けると、水分はなおも膨張しようとするが、硬くなった細胞壁に閉じ込められているため、内部の圧力が徐々に高まっていく
  4. ある時点で細胞壁が壊れ、水蒸気が一気に放出される——このときに発生するのが、あの破裂音

これが1ハゼです。

1ハゼの本質は「水蒸気の放出現象」であり、破裂音はそれに付随して起こる現象にすぎません。


1ハゼと風味の関係

1ハゼは、水蒸気の圧力によって細胞壁が壊れる「物理現象」です。ここで注意したいのは、爆ぜたこと自体がコーヒー豆の風味を変えるわけではない、ということです。風味に影響を与えるのは、メイラード反応やカラメル化反応といった「化学変化」です。

ただし、ハゼという物理現象によって豆内部の温度・圧力条件が変われば、化学反応の進み方にも影響します。つまり1ハゼは、コーヒー豆の風味を左右する重要な転換点なのです。

1ハゼ以降の焙煎工程は、英語で「Development Stage(発達段階)」と呼ばれます。これは、豆の物理状態が変化したあとに、風味を決定づける化学変化が進行する段階、という意味だと考えると腑に落ちます。

特に浅煎りの焙煎では、「1ハゼを起点として、どれだけの時間加熱を続けるか」が、焙煎終了のタイミングを決める重要な指標のひとつです。焙煎家の方なら、DTR(Development Time Ratio:焙煎時間全体に占める1ハゼ以降の時間の割合)という数値をご存じでしょう。


2ハゼはまったく別の現象

一方、2ハゼは1ハゼとはまったく異なる仕組みで起こります。

2ハゼを迎える頃には、豆の状態は1ハゼのときから大きく変わっています。水分はほとんど抜けきり、内部では熱による分解反応が進み、細胞壁は炭化して、ガラス質を通り越すようにもろくなっています。この「もろくなった細胞壁」が、内部にたまったガスの圧力に耐えきれずに壊れていく——これが2ハゼだと考えられています。1ハゼより音が高く、細かく連続的に聞こえるのは、より小さなスケールで次々と壊れていくためです。

内部にたまるガスは、熱分解によって生じる二酸化炭素(CO₂)が中心で、残っていた水蒸気やさまざまな揮発成分も加わっていると見られます。ただし、2ハゼが「いつ」起こるかを決めているのは、ガスの発生量そのものよりも、細胞壁が“壊れる限界”に達する構造の変化のほうではないか、というのが近年の理解です。1ハゼが「水分の物理的な放出」というシンプルな現象だったのに対し、2ハゼは熱分解が十分に進んだ結果として起こる、より複雑な現象——同じ「爆ぜる」でも、その中身はかなり違うのです。

1ハゼ (First Crack)2ハゼ (Second Crack)
起こること水蒸気の圧力で細胞壁が壊れるもろくなった細胞壁がガスの圧力で壊れていく
豆の状態水分を含み、ガラス状に硬化水分が抜け、熱分解が進み炭化
音の特徴低く大きい、断続的高く細かい、連続的
主な放出物水蒸気CO₂・水蒸気・揮発成分
焙煎における意味Development Stageの起点(DTRの基準)深煎りの目安、油分がにじみ出始める
1ハゼと2ハゼの比較

実のところ、2ハゼの発生メカニズムは、コーヒーの科学のなかでもまだ完全には解明されていない領域です。焙煎中に何がどの順番で効いているのか、精密に測り切った研究は多くありません。それだけに、探究しがいのあるテーマであり、私たち株式会社宙豆ラボが今後取り組んでいきたい研究テーマのひとつでもあります。

なお、2ハゼの前後になると、豆の表面から油分(脂質)がにじみ出てきます。これは細胞の構造が壊れた結果として起こる現象で、破裂音そのものの原因ではありません。このにじみ出た油分は空気に触れて酸化しやすく、酸化した油は風味を損なうだけでなく健康にも良くないため、2ハゼを経た深煎りの豆は、保管に少し注意が必要です。


1ハゼの検知は、なぜ難しいのか

さて、1ハゼの話に戻りましょう。1ハゼが焙煎の重要な指標であることは前述のとおりです。では、その重要なタイミングを、どうやって見極めればよいのでしょうか。

これまで、1ハゼの判定はほとんどの場合「破裂音」に頼ってきました。しかし破裂音の聞こえ方は、豆の数や重量(つまり粒径・体積・比重)によって大きく変わります。しかも音の発生は不連続で、はっきり鳴る豆もあれば、ほとんど聞き取れない豆もあります。重要な指標であるにもかかわらず、1ハゼの発生タイミングを正確に見極めることは、非常に難しかったのです。


音ではなく、水蒸気を測る — COFFEE HAZELの発想

思い出してください。1ハゼの破裂音は、水蒸気放出に付随する現象にすぎません。ならば、音ではなく水蒸気そのものを観測したほうが、1ハゼのタイミングを高精度に捉えられるはずです。これが私たち、株式会社宙豆ラボのアイデアです。

宙豆ラボは、コーヒーにまつわるさまざまな事柄を科学的視点で捉え、商品開発を行う会社です。KURIYA COFFEE ROASTERSと志を共にする仲間たちで立ち上げました。その第一弾の商品が「COFFEE HAZEL」です。

COFFEE HAZEL 本体(ブルーとオレンジ)
COFFEE HAZEL 本体(ブルー / オレンジ)

COFFEE HAZELは、水蒸気を測定するセンサーと、デスクトップアプリケーションで構成されるシステムです(特許出願中)。仕組みはこうです。

  1. 焙煎機の排気管(煙突)内に設置した湿度計で、排気中の水蒸気量を絶対湿度(g/m³)として測定する
  2. 室内の絶対湿度との差分から、コーヒー豆が放出している水蒸気量を算出する
  3. その増減を上昇率として継続的に監視する
  4. 上昇率が一定の閾値を超えたとき、「1ハゼが発生した」と判定し、ユーザーに通知する
ドラム内水蒸気量(Steam in drum)と変動率(Rate of change)のグラフ。1ハゼ(1st Crack)の時点で水蒸気が明確に上昇している
実際の測定データ。1ハゼ(1st Crack)の時点で、ドラム内の水蒸気量がはっきりと立ち上がっている

COFFEE HAZELを使えば、明確な数値にもとづく客観的な指標で、1ハゼの発生タイミングを決定できます。これは焙煎の再現性を高め、ひいては焙煎豆の品質向上、そしてより美味しいコーヒーづくりにつながります。

コーヒー豆はなぜ「爆ぜる」のか
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